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電気メス

【原理、構造】  

  • 周波数 : 300kHz~5MHz程度
  • 凝固の最大出力電圧 : 200W程度
  • 切開の最大出力電圧 : 400W程度
  • 高周波漏れ電流の許容値 : 150mA以下
    • 200Ωの無誘導抵抗を通して接地に流れる高周波電流
  • 標準的負荷抵抗 : 500Ω
  • アーク放電(電気火花)を利用し、凝固・切開を行っている。
  • 発生するジュール熱によって切開、凝固を行う。
  • メス先はアクティブ電極である。
  • メス先と組織との接触面積が小さい方が切開効率は良い。
  • 凝固にはピーク電圧の高い断続波(バースト波)を使用する。
  • 切開時は連続的に高周波を流す。
  • 切開効率を上げるためにはメス先と組織の接触面積を最小限にする。
  • 混合モードでは生体を凝固しつつ切開することができる。
    • 組織を切開しながら凝固させる混合性出力では電流の出力と停止を繰り返している。出力と停止の1サイクルの時間に対する出力の時間割合をデューティサイクルといい、大きくなるほど切開能が上がる。
  • スプレー凝固ではメス先を組織に接触させずに凝固させる。
  • 凝固時では生体組織は70~90℃に上昇。
  • 切開時では生体組織は瞬時に100℃を超える。
  • 出力スイッチの識別色はJISで規定されている。
    • 切開モード : 黄色
    • 凝固モード : 青色
  • クレストファクタ(波高率)は電流のピーク値と実効値の比で表され、大きいほど凝固作用が強い。
  • 混合モードではクレストファクタが大きいほど凝固作用が強い。 

 
電気メスの構成

  • 高周波電流発生装置(電気メス本体)
  • 電気メス本体では周波数は300kHz~5MHzまで増幅して発振している。
  • 出力電力は、切開で200~400W、凝固で100~200W程度である。
  • 電流値は数100mA~数A程度(使用時の不可抵抗により電流値は異なる)
  • 電圧値は、切開2000V、凝固3000V、スプレー凝固9000V。

 
電気メスの電流の流れ

  • 電気メス本体 →アクティブ電極 →生体 → 対極板 →本体
  • この経路以外に電流が流れることを高周波分流という。

 
 
【出力】 

  • 筋刺激を低減させるため出力回路コンデンサが挿入されている。
  • モノポーラ出力回路に挿入されているコンデンサの容量は5000pF以下である。バイポーラ出力回路で50nF以下とされている。

 
 
【高周波分流と安全回路】 

  • フローティング型電気メスでは高周波分流が起こりにくい。
  • 出力回路のフローティングは高周波分流対策である。
  • 電気メスでは高周波を利用するため、誘導性リアクタンスは増大し、対極板回路へ電流が流れ込みにくくなるため、高周波分流による熱傷の原因となる。
  • 高周波分流対策では非接触型を用いる。
 
 
【電極】

アクティブ電極

  • 正式にはアクティブ電極(能動電極)であるが、メス先電極と呼ぶこともある。

 
 モノポーラ電極

  • 対極板が必要
  • 作用電極が1本で、最も汎用されている。
  • メス先の主流はブレード型であるが、用途に応じて使い分ける。
  • 切開と凝固の2つの出力スイッチを組み込んでいる場合には、電極に近い方が切開で、電極から遠い方が凝固スイッチとしている。
  • フットスイッチでの出力のオン・オフでは、操作者からみて切開ペダルを左側に、凝固ペダルを右側に配置するとしている。
  • 切開と凝固は色で識別されており、JISでは切開は黄色、凝固は青色としている。
  • また、出力時のブザー音の違いでの誤操作の防止をしている。

 
バイポーラ電極

  • 対極板不要
  • ピンセットの先端のように近接して位置する2本の電極からなり、挟んだ微小な部分だけに電流を流す。
  • 微小な部分の凝固に用いられる。
  • ほとんどがフットスイッチで作動させるが、ハンドスイッチタイプのものもある。
  • 対極板を必要とせず、両電極が近接しているので心電図やペースメーカへ影響を及ぼすことも少ない。
  • 脳神経外科手術などの微細な手術(マイクロサージェリー)などに応用されている。
  • 最大出力は50W程度である。

 
その他

  • 電極の滅菌方法は、EOG滅菌・高圧蒸気滅菌にて行う。
 
 

【対極板】 

  • 対極板は、アクティブ電極から集中させた電流を拡散し、熱傷を生じさせない程度に低い電流密度にして本体に回収する電極である。
  • 対極板と生体との接触面積が減少することで電流密度が大きくなり、熱傷の原因となる。使用する出力電力に対して十分な大きさのある対極板を使用する必要がある。
  • 対極板は血行の良い筋肉質な部位に装着する。
  • 成人用の対極板の面積は、110~150 cm2のものが用いられる。出力100Wのとき対極板面積は40cm2以上が安全域である。
  • バイポーラ出力では対極板は不要である。

 

望ましい装着部位 避けた方がよい装着部位
平坦で十分な装着面積の確保できる部位
血行のよい筋肉質な部位
傷跡のない正常な皮膚面
皮脂、汗、体毛で覆われていない部分
圧迫を受けない部位
消毒液などが流れ込まない部位
肩甲骨など、骨の突起した部位
傷跡が瘢痕化した部位
 血行が悪い部位
ペースメーカ植え込みの近辺
心電図などのモニタ電極の付近
子供や女性で腕の細い人は十分な装着面積がとれないので上腕部は避ける。

 
静電結合型

  • 静電結合型対極板はフローティング型電気メスとの併用が望ましい。
  • 静電結合形対極板では生体と電極聞の接触面積を静電容量の測定でモニタするSAS(Safety Area System)が用いられている。

 
導電結合型

  • 静電結合型と比べて、導電結合型の方が接触抵抗は低い。
  • 導電形対極板の生体接触モニタとして2つの電極間のインピーダンスをモニタするREM (Return Electrode Monitor) が用いられる。

 
デュアルパット型

  • デュアルパッド型対極板は二分割した面と接触している生体を含めた回路に50~100 kHzの微弱電流を流し、両伝導面間のインピーダンスを測定することで接触不良を監視している。

  
対極板の取り扱い 

  • 対極板回路の誘導性リアクタンスの増大は熱傷の原因となる。

 
身体同士の接触による熱傷の注意ヶ所

 

  
【取り扱いと安全管理】 

  • バイポーラ型の熱傷事故発生の原因
    • 小児用対極板を成人に使用した。
    • 手の指先が側腹部に軽く触れた。
    • 対極板コードをループ状に束ねて使用した。
  • 使用時には心電図モニターや経食道エコーにノイズが混入したり、ペースメーカのデマンド機構に影響を与えたりするため十分理解して使用する必要がある。
  • ペースメーカ植込み患者に使用する時はモードを固定レートに設定する。
  • ポビドンヨード液は、電気的な絶縁性を持つため、電気メスを使用する際は、対極板との間にポビドンヨード液が入らないように注意する。
  • 点検に用いる負荷抵抗器は、コイルを含まない無誘導抵抗器を使用する。
  • 高周波漏れ電流には200Ω、出力電力にはメーカの指定する値(100~2000 Ω) の範囲で使用する。
  • 出力電力は、メーカの指定した無誘導負荷抵抗を使用し、I2Rより求める。20%以内で正常である。
  • バイポーラ型の出力電力の測定では、メス先-メス先間に無誘導負荷抵抗を挟み測定し、対極板は不要である。
  • 対極板接触不良モニタ点検では、接触抵抗を変化させアラーム確認を実施する。