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心筋保護法

 【心筋保護法】

  • 心筋保護液の原則の目的
      • 化学的心停止(高カリウム、低ナトリウム)
      • 低温(心筋酸素消費量減少)
      • 付加的保護物質の追加(浸透圧性薬剤、ステロイド薬、酸素の投与など)
  • 阻血時間の安全限界の延長が心筋保護の目的
  • 大動脈遮断後に灌流する。
  • 心筋保護液の注入温度は10~15℃前後。
  • 連続的な心停止によってエネルギー(ATP)の消費を抑制する。
      • 急速な化学的心停止により、エネルギーを温存する。
      • 大動脈遮断により冠状動脈の血流が途絶され、虚血状態に陥ると心筋に負荷がかかる。
  • 心筋保護液は専用ポンプにて投与する。
  • 心筋保護にて注入圧が高い場合、心筋浮腫をきたしやすくなり、また低い場合には心筋保護液が不均一に分布しやすくなるため、注入圧のモニタリングは重要である。
  • 心停止には高カリウム液を用いる。10~20mM程度の高カリウムにて速やかな心停止を得る。
  • 細胞膜の安定化のためにステロイド、プロカイン、トリプトファンなどが添加される。
  • 重炭酸ナトリウムはアシドーシス防止のために添加される。
  • マニトールは細胞浮腫の予防のために添加される。
  • インスリンを添加することによりグルコースの利用を促進する。
  • Hot shotは大動脈遮断前に注入する。
  • 心筋温を下げることによって酸素消費量を低下させる。
  • 化学的心停止により心筋酸素消費量は1/10となる。
  • 完全体外循環中は、おおよそ20~30分の間隔で心筋保護液注入が必要である。また、持続的に心筋保護液を注入する方法もある。
  • 心筋保護液は細胞内液型と細胞外液型がある。
      • 細胞内液型 : Bretschneider液、GIK剤
      • 細胞外液型 : ST.Thomas液

 
心筋酸素消費量

  • 体外循環中の心筋酸素消費量は、心停止、温度低下によって減少する。
  • また常温(37℃) では、心臓が空の状態で拍動している空打ちの方が、心室細動よりも酸素消費量が少ない。
  • 心臓の負荷が小さくなる、すなわち、心臓内の血液の吸引(ベンティング)や、 IABP の併用による後負荷の軽減などによって心臓の仕事量が減少すると、心筋の酸素消費量も減少する。

 
 
 
【心筋保護液】

  • 心筋保護液の温度は、心停止の導入は Cold、維持は Tepid、再濯流前に Warm を使い分ける。
  • Tepid 法の注入温度は 30℃程度である
  • 付加的保護物質は、概ね心筋細胞障害防止の目的で添加され、キシロカイン、ステロイド、カルシウム拮抗剤等がある。
  • 成人の手術では初回 1000mL (20m / kg) 、2 回以降を 500mL とすることが一般的である。施設ごとに注入量は異なるが体重当たりの注入量 20mL / kg が目安となる。 

 
晶質液心筋保護液

  • 正常な血清カリウム濃度は、 3.5 ~5.0 mEq / L であるが、通常 8 mEq/L で心停止となる。
  • 細胞外液型心筋保護液である S t. Thomas 液のカリウム濃度は 16 mEq/L である。また、ナトリウム濃度が高い。
  • 細胞内液型心筋保護液にはGIK液を用いる。
  • 晶質液法の注入温度は0~4℃程度。

  
血液併用心筋保護液

  • 血液併用心筋保護液は、品質液と血液を 1:2、 1:4 といった希釈割合で希釈する。
  • 血液併用法の注入温度は10 ~ 13℃程度。
  • 血液併用による効果として、酸素運搬能の向上やヘモグロビンによる pH 調節の緩衝作用、膠質浸透圧の維持よる心筋浮腫の軽減などがある。
  • 晶質液のみに比べて酸素が供給されるため、好気性代謝が促進される。

 
終末期加温血液心筋保護液 (terminal warm blood cardioplegia)

  • 大動脈遮断解除前に心臓を停止させた状態で心筋に貯蔵エネルギーを補填する。
  • 貯蔵エネルギーが枯渇したまま、大動脈遮断後に拍動を再開するよりも心機能回復に有用とされている。
  • 動脈遮断が長時間に及んだ症例で、心筋能回復に有用であるとされている。
  • 大動脈遮断解除直前に 30 ~ 33℃に加温した血液を一定時間(一定量)注入するのが一般的である。

 
 
 
【注入方法】
具体的注入法

  • 心筋保護の原理
      • 化学的心停止
        • 高カリウム:心筋の脱分極(細胞外液型)
        • 低ナトリウム:心筋内外の濃度勾配消失(細胞内液型)
      • 低温
        • 晶質性心筋保護液:4℃
        • 血液併用心筋保護液:10~20℃
  • 心筋保護液夜注入方法と注入圧(心筋保護液用ローラポンプで注入)
      • 順行性冠獲流:大動脈起始部から 80~100mmHg で灌流
      • 選択的冠灌流:冠動脈口から 80~100mmHg で灌流
      • 逆行性冠灌流:冠静脈洞から 30mmH g以下で灌流
  • 心筋保護注入量
      • 初回 20 mI/kg、2 回目以降10mI/kg を 20~30 分間隔で注入

 
僧帽弁閉鎖不全症例では大動脈基部から注入する。

  • 大動脈弁閉鎖不全症を合併していると、大動脈基部からの順行性注入を行うと、心筋保護液が左心室に落ち込み、心筋保護が不十分になる。大動脈基部を切開し、左右冠動脈開口部から直接注入を行う。

 
順行性冠灌流

  • 大動脈起始部に留置した心筋保護カニューレ、あるいは冠動脈口に直接挿入したカニューレより心筋保護液を注入する。
  • 順行性注入では心筋保護液の不均衡分布が生じることがある。
  • 順行性心筋保護の適正注入圧 : 50~100mmHg程度

 
灌流圧低下について

  • 体外循環開始直後に圧低下(イニシャルドロップ)を引き起こす事がある。原因としては急激な血液希釈による末梢血管抵抗の減少による。
  • 心臓内部あるいは冠動脈への血流の流入を完全に止めるため大動脈基始部に大動脈遮断鉗子がかけられる。その際、鉗子操作による大動脈の負担を軽減するため、ポンプ流量を一時的に落として潅流圧を下げる。また、大動脈遮断解除の時も同様である。
  • 送血管が十分に大動脈内に入ってない状態で送血すると、大動脈解離を起こす事がある。この際、偽腔に血液が送血され、灌流圧低下を招く。

 
 
【逆行性冠灌流】

  • バルーン付きカニューレが用いられる。
  • 心臓外科医の手術操作を中断せずに注入できる。
  • 冠状静脈洞にカニューレを留置する。
  • 冠状動脈狭窄領域に心筋保護が到着する。
  • 冠状静脈洞から逆行性に心筋保護液を注入
  • 逆行性心筋保護の適正注入圧 : 50mmHg以下。
  • 右心系の心筋保護液の灌流が不十分である。