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適正灌流

【人工心肺の灌流量の決定】

  • 適正灌流量は、生体の酸素需要を満たす酸素供給ができる灌流量であり、体温、体表面積、体重など体の大きさで異なる。
  • 体温が低下するほど灌流量は低くなり、体が大きくなるほど体の大きさ単位あたりの流量は減少する。
  • 体外循環中の」中心静脈圧は0~5mmHgで管理を行う。
  • 混合静脈血酸素飽和度は末梢組織への酸素供給の指標と用いられ、70% 以上あれば十分と 考えられる。
  • 低体温による末梢組織への酸素消費量の減少から、濯流量は常温時の濯流量よりは少なく設定できる。
  • 中等度低体温では、成人 2.3~2.5 L/min/m2 、小児 2 .4 ~2 .6 L/ min/m2 、乳児 2 .4~3.0 L/min/m2 が適正灌流量とされている。
  • 側副血行路の多い左右短絡の先天性心疾患などでは、灌流量を多く設定するか、拍動流など灌流方法の変更を考慮する。
  • 過度の高流量は血液損傷、気泡形成などの合併症に注意する。
  • 逆行性脳灌流では、送血圧あるいは CVP が 20 mmHg を超えないように管理する。
  • 逆行性脳灌流された血液は、頚動脈に戻ってくるため、サクション回路で回収する。
  • 身長と体重から求める体表面積で適正灌流量が決まる。
  • 復温時は末梢血管拡張による灌流圧の低下とともに、代謝の亢進による酸素需要の増加が起こるため、灌流量を上げる必要がある。
  • 体外循環における適正灌流量は、術前の 60 ~70% 程度となる。
  • 混合静脈血酸素飽和度は、全身で酸素が消費され戻ってくる静脈血の酸素飽和度を表している。そのため低すぎると酸素供給が不足していることを示す 。
  • 混合静脈血酸素飽和度が 70% 以上の際は末梢への酸素供給が十分であると考えられるため、送血流量を下げる必要はない。

 
常温下での適正灌流量

  • 一般に28℃前後の中程度低体温では、成人、小児、幼児では身長と体重より求められる体表面積当たりの至適灌流量は以下のように示されている。
      • 成人 : 2.3~2.5L/分/m2 (60~80 mL/分/kg)
      • 小児 : 2.4~2.6L/分/m2 (80~100 mL/分/kg)
      • 幼児 : 2.4~3.0L/分/m2 (100~120 mL/分/kg)

体表面積 灌流量
0.8m2 > 2.4~2.6 L/min/m2
0.8 ~ 1.2 m2 2.2~2.3 L/min/m2
1.2 m2 < 2.0~2.2 L/min/m2

 
心係数

  • 体表面積1m2あたりの1分間の心拍出量のこ
      • 単位 : L/分/m2
      • 計算方法 : (1回心拍拍出量 × 心係数) / 体表面積

 
適正灌流条件まとめ

  • 2.3~2.5L/min/m2
  • 平均大動脈圧 60~80mmHg
  • 中心静脈圧 0~数cmH2O
  • 混合静脈酸素飽和度 > 70%
  • Ht 20~25% (Hb 7.0~9.0g/dl)
  • ヘモグロビン <7.0g/dL
  • ACT > 400秒
  • 尿量 > 1mL/hr/kg

 
 
【血液希釈】

  • 血液希釈により血液の粘性は低下し、末梢血管抵抗は低下する。
  • 希釈限界はヘマトクリット値 20% 以上、ヘモグロビン 7g/dL 以上を目安とする 。
  • 体外循環開始時には、充填液流入による急激な血液希釈がおこりカテコールアミン濃度が急激に低下するため、末梢血管抵抗が低下し、一過性の低血圧 (initial drop)をきたすことがある。
  • 血液希釈は電解質液で行われるため、過度な希釈でも品質浸透圧は大きく変動しない。ただし膠質浸透圧は、電解質液のみで希釈した場合に低下が起こる。
  • 血液希釈を行った場合には、血液粘稠度の低下、酸素運搬能の低下、膠質浸透圧の低下、などが挙げられ、結果的に輸血量の軽減も期待できる。
  • 血液希釈により血液粘稠度は低下する。これによりローラーポンプによる「ずり応力」が減少し、血球損傷が抑えられ溶血が軽減される。
  • 血液希釈によって末梢血管抵抗が減少され、腎臓やその他の臓器の虚血障害を軽減することが出来る。

 
<希釈率計算01>
身長175cm、体重65kg、術前ヘマトクリット値42%の患者に体外循環を行った。回路内重点液を1250mLとしたとき希釈率[%]として正しいのはどれか。ただし、輸血はしないものとする。
 
予想希釈率の計算は以下の式で求められる。
予想希釈率= [ (回路充填量一輸血量) / (循環血液量+回路充填量) ] × 100
循環血液量は体重 × 1/13 で求められる。この問題では、
循環血液量 = 65000 / 13 = 5000 [mL]
となる。
予想希釈率=[1250 / (5000 + 1250) ] × 100 =20
従って、予想希釈率は 20 [%]となる。
 
 
<予想ヘマトクリット計算01>
体重60kg、ヘマトクリット値40%の患者に充填量1200mLの人工心肺回路で体外循環するときの予想ヘマトクリット値[%]はどれか。ただし、循環血液量は体重1kgあたり80mLとし、回路充填には輸血は用いないこととする。
 
人工心肺による体外循環では、患者血液は回路内充填液により希釈され、血液による酸素運搬能の低下を来す。そのため、体外循環中の血液希釈の安全限界はヘマトクリット値 20% とされている。これ未満の高度希釈が予想される場合は、回路充填に輸血を用いることとなる。
 
回路充填に輸血を用いない場合の予想、ヘマトクリット値は、以下の式で算出される。
体循環血液量 [mL] = 体重 [kg] × 80[mL/kg]
体循環赤血球量 [mL] = 体循環血液量 [mL] × ヘマトクリット値 /100
予想ヘマトクリット値[%] = 体循環赤血球量 [mL] / (体循環血液量[mL] +回路充填量[mL]) × 100
 
よって、題意の予想ヘマトクリット値は、以下の結果となる。
体循環血液量= 60 × 80 = 4800 mL
体循環赤血球量==4800 × 40/100 = 1920 mL
予想ヘマトクリット値= 1920 / (4800 + 1200) × 100 = 32%
 
なお、回路充填に輸血を用いる場合は、その輸血に含まれる赤血球量を体循環赤血球量に加え算出することとなる。
 
 
【低体温】

  • 低体温により末梢血管抵抗は高くなる。
  • 低体温により末梢血管抵抗は 30℃までは緩徐に上昇し、以後急速に増大し 20℃では常温の 3 倍となる。
  • 体外循環時に低体温にした場合に生体に与える影響には、基礎代謝の低下、末梢血管収縮、血液粘稠の増大などがあり、酸素解離曲線は左方移動となる。
  • 低体温にすると基礎代謝が低下するため、混合静脈血酸素飽和度は高値を示す。
  • 低体温にすると基礎代謝が低下するため、灌流量を低下させても安全である 。
  • 常温を100%とすると、30℃で50%、25℃で 25% 、15℃で10%程度である
  • 低体温では、インスリン分泌が低下することにより高血糖となる。
  • 体温を低下することで酸素消費量は低下する。