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補助人工心臓(VAD、VAS)

 【概要】

  • IABPは非常に心筋のポンプ機能が低下した心不全に対する補助としては限界がある。より重症の不全になった心臓の働きを補助・代行する装置がVADである。VADとは、心室の血液流量を補助する装置ということである。
  • 100%の流量補助能力を持つ。
  • 心臓移植のブリッジとして用いられる。 →主に左心補助に用いられる。
  • 右心不全を併発した場合は右心補助心臓も追加する。 →結果として両心補助となる。
  • 心尖部より脱血し、送血は上行大動脈へ送血する。
  • 心尖脱血では心房脱血より流量特性が向上する。

 
 
【VADの使用目的】

  • 心臓移植への橋渡し(ブリッジ)として使用する。長期使用が可能。
  • 心不全のすべてあるいは一部に代わって体循環の維持、すなわち全身臓器・組織への血液および酸素を供給すると同時に、血圧の維持をはかる。
  • 心不全自体の冠動脈へ十分な血液供給を維持することにより、心筋代謝の回復をはかる。
  • 全身循環の代行が行える。
      • 補助人工心臓は、自己心拍出が全くない状態で用いられ、救命事例が報告されている。

 
 
【VADの構造】
血液ポンプ

  • 長時間の循環維持を目的として開発、臨床使用されているポンプである。
  • 拍動流型と連続流量型がある。
      • 連続流ポンプは遠心ポンプと軸流ポンプがある。
      • 無拍動ポンプは拍動流ポンプに比べて小型である。
      • 連続流型では無拍動の遠心式ポンプが用いられる。
      • 拍動流型ではチャンバー出入り口に一方弁が必要である。
      • 体外設置型には、ダイアフラム型に代表されている拍動流型の空気駆動式が良く用いられる。
      • 体内植込み型には、小型化の容易な連続流が多く、軸流ポンプや遠心ポンプが用いられる。
  • 心尖部より脱血し大動脈へ送血する。
  • ポンプ内部の流入路と流出路のそれぞれに逆流防止弁(一方弁)が組み込まれ、空気圧駆動方式によりポンプ容積を変化させ、血液を拍出させる。
  • 拍出は作動回数や駆出量で可変する。
  • 空気駆動式の補助人工心臓は拍動流ポンプである。
  • ポンプ容量は、成人で40~70mL程度であり、最大拍出量4.0~7.0L/minである。
  • 両心補助の場合は同型式の血液ポンプを用いる。
      • 全身循環維持可能なポンプであれば、どのような組み合わせでも使用可能。
  • 使用期間は最高で30日間であるが、血液ポンプ内の血栓形成や損傷した場合には使用期間内であっても速やかな交換が望まれる。

  
カニューレ

  • カニューレは抗血栓性に優れた専用のものを用いる。
  • 送血カニューレには10cm程度の人工血管が付属し、血管吻合により使用される。
  • 脱血カニューレは心房カフ(ダクロンベロア)を心臓の各々の部位と接続する。
  • 脱血において左室脱血の方が高流量を得やすい(左房からは安定した量が得られない)。

 
駆動装置

  • 駆動装置には心電図、血圧、血流量、各種設置の入力など行うディスプレイやコントロールノブが配置されている。
  • 作動の詳細は自動で制御され、安全性の高いものとなっているが、人為的な入力ミスで重大なトラブルに発展するため、作動状況の詳細について頻回にチェックすることが重要である。

 
 
【VADの適応と実際】

  • 人工心肺から離脱困難な開心術後
  • 開心術後の重症低心拍出状態
  • 急性心筋梗塞に続発する重症心原性ショック
  • 重症の心室性不整脈
  • VADの中では、左心室を補助するLVADが最も多い。

 
 
【種類】

LVAD : 左心室の補助を行う左心補助人工心臓 RVAD: 右心室の補助を行う右心補助人工心臓
□ 血液ポンプによって、心臓の左心室または左心房から血液を受け取り、大動脈へと送り出す装置
□ 左心補助心臓は左房脱血と左室脱血タイプがある。
□ LVADの脱血は左室心尖部が主流である。
□ 流量維持の観点からは左室脱血が有利。
□  右心房から血液を受け取り、肺動脈へと送り出す装置

   
 
【合併症】
血栓塞栓症

  • 血液ポンプは、抗血栓性に優れたポリウレタンを用いている。しかし、ポリウレタンも人体には異物であるために、どうしても血栓ができやすくなる。
  • 血栓は血の塊であるため、血流に乗って全身へと運ばれ、臓器の動脈血管をふさいでしまうこともある。このようにして生じる病気を血栓塞栓症と呼ぶ。例えば、脳の動脈に詰まれば脳梗塞になる。

 
出血

  • ワルファリンの管理が必要。
  • 血栓ができるのを予防する目的で、血液を固まりにくくする抗凝固薬(ワーファリンや低分子へパリン)と抗血小板療薬(アスピリン等)を併用する。
  • しかし抗凝固療法および抗血小板療法を行っていると出血しやすくなる。このため何らかの原因で出血が起こると血が止まりにくくなる。
  • 例えば脳の血管で出血が起きる脳出血では、通常よりも症状が重くなることがある。

 
感染症

  • チューブが身体に挿入されているため、この部分に感染が起こりやすく、いったん感染を起こすと治りにくくなる。
  • また、挿入部の感染から全身性の感染症を引き起こすことがあり、この場合には重篤な状態になることもある。

 
 
【補助人工心臓の管理

  • 補助人工腎臓による循環補助は、過少では、全身状態を悪化させ、過剰では心不全状態の回復を遅らせる。
  • 総血流量を送血カニューレに接続した電磁流量計にて計測する。
  • 肺うっ血の予防に、左房圧をモニタし管理するとともに、抗凝固剤の併用を検討する。
  • 血栓塞栓症を予防しつつ出血を抑制する必要があるため、ACTは150~200秒で管理する。
  • 循環の管理として総血流量を2.5~3.5 L/min、静脈血酸素飽和度を65%以上であることが目安となる。
  • 離脱は基準を設けるとともに、複数の指標の総合評価から判断して行う。
  • 補助人工心臓を使用する際には抗凝固剤を用いる。
  • 遠心ポンプ方式が主流となっている。
  • 我が国では完全植込み型人工心臓は2018年より認定された。
  • 左心補助、右心補助、両心補助と患者状態により使い分ける。
  • 軸流型は拍動流型より小型化されたものが多い。
  • 左心脱血は左房脱血に比べ、高流量を得やすい。