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経皮的心肺補助法(PCPS)

 【概要】

  • PCPS (経皮的心肺補助法)は経皮的に挿入された送脱血力ニューレ・膜型人工肺・遠心ポンプから構成される閉鎖回路の人工心肺装置であり、重症心不全症例や体外循環離脱困難症などに対し効果を上げている。
  • セットアップが容易である。
  • 運搬が容易である。
  • PCPSの特徴は開胸操作を必要とせず、力ニューレを経皮的に挿入でき、また10分程度で回路を準備することが可能なため緊急時でも即座に対応でき、心臓外科のみならず循環器内科・救命救急などの広い診療科で使用されている。カニューレの挿入部位は大腿動静脈が基本であるが、腋窩動脈、鎖骨下動脈も選択できる。さらに重症呼吸不全に対する呼吸補助法(ECMO)としても利用されている。
  • 全身麻酔は不要である。 →局所麻酔にて導入することが可能である。
  • PCPSの構成は、血液ポンプ(遠心ポンプ)と駆動装置および制御装置、人工肺、血液回路と送脱血力ニューレが主たる要素で、人工肺ヘガスを供給する酸素ブレンダや体温調節を行う熱交換器なども付属する。
  • PCPSは、静一動脈バイパス(V-Aバイパス)の循環形式を持つ閉鎖回路であり、通常、送-脱血力ニューレを経皮的(セルジンガ一法)にガイドワイヤーにて導き、挿入する。脱血力ニューレは大腿静脈から挿入し先端を右房内に留置、送血カニューレは、大腿動脈へ挿入、留置する。 →局所麻酔
  • 経皮的に大腿動静脈から挿入するため、比較的に径の細い力ニューレを使用するが、血球に対する圧力損傷なども考慮し、できるだけ太い(適切な)力ニューレの選択が必要となる。
  • PCPSが長期間の施行となる場合、送血力ニューレ挿入側の末梢虚血が心配されるため、送血用の留置針を末梢側へ挿入することを考慮する。
      • 大腿動脈送血は体外循環(順行性)に対して逆流(逆行性)となり左心系にとって後負荷となる。
  • 右心系に対する心補助効果が期待できる = 前負荷の軽減
  • 補助流量の増加により左室の後負荷が増加する。
  • ACT : 150~200秒で管理

 
 
【遠心ポンプ(血液ポンプ)】

  • PCPSの血液ポンプは長期使用が前提になることから、遠心ポンプのみ血液ポンプとして使用可能である。
  • 遠心ポンプ装置は、ポンプヘッド、駆動および制御装置、流量計(血流計)、バッテリーなどで構成されている。
  • このポンプの利点は血球被壊が極めて少なく、欠点は送血圧(後負荷)により拍出量が変化するため必ず血流計が必要であり、回転数では拍出量を把握できない。
  • 補助流量は通常2~4L/minである。
  • また注意事項として、低拍出量にした際、送血圧が体血圧に満たないと血液が逆流することと、多量の空気が混入した場合には羽根様な構造部が空転し、患者に空気を送り込む心配がない反面、血液の拍出ができなくなる。
  • 心拍出量の50~70%を補助できる。

 
 
【人工肺】

  • PCPSで使用される人工肺は、閉鎖回路内に組み込むことができ、長期的にガス交換能に優れ、血液損傷や血液充填量が少ないものが好ましい。
  • 一般的に膜型人工肺で、均質摸素材や複合膜素材のものを使用するが、膜に細孔がある多孔質膜で外部灌流型のものが最近では使用されている。
  • さらに血液回路と同様に抗血栓性に優れたヘパリンコーティングを人工肺にも施し、長期の補助循環に使用されている。 人工肺へガスを供給する酸素ブレンダや体温調節を行う熱交換器なども付属する。

 
 
【血液回路】

  • 血液回路は患者とPCPS装置の構成要素との橋渡し役をする。
  • 一般に血液回路の材質には人工心肺と同様に塩化ピニルを使用し、血液が空気に触れる部分がない閉鎖回路の血液回路である。
  • さらに長時間の循環による血栓形成を予防する為、血液回路にはなるべく血液の停滞部分や分岐部をなくする工夫をする。また、回路には人工肺と同様に血液接触面に対する抗血栓性に優れたヘパリンコーティングを施し、生体適合性を向上させ、抗凝固剤量の低減やそれに伴う出血防止に努めている。

 
 
【PCPSの長所・短所】
<長所>

  • 血液損傷(溶血)が少ない。
  • 空気を送り込む危険性が少ない。空気が流入した場合、ポンプ作用が著しく低下するため、空気を送り込む危険性はローラーポンプよりも小さい。 
  • 脱血に過度の陰圧を生じない。陰圧が生じると流量が低下するため、ローラーポンプに比べてマイクロバブルの発生が少ない。
  • 危険な高圧が発生しない。圧力発生型のポンプであり、回路・肺が破損するような高圧は発生しない。
  • オクリュージョンの調整が不要。
  • ポンプヘッドの摩耗が少なく、耐久性に優れている。
  • 駆動装置が小型でバッテリーを内蔵する機種が多く可動性に優れている。
  • 全身麻酔は不要である(多くの場合は局所麻酔のみ)。

 
<短所>

  • 負荷変動により流量が変化する。同じ回転数で運転していても圧力負荷(後負荷)が変動すると流量が変化するため、常に回転数を操作する必要がある。
  • 吸引・ベントポンプとして使用できない。空気を送ることが出来ないので使用できない。
  • 回転が停止もしくは低流量の場合、二次側の動脈側より逆流が生じるため、クランプする必要がある。
  • 完全体外循環はできない。

 
 
【適応病態】

  • 急性肺動脈血栓塞栓症
  • 開心術後急性心肺不全
  • 重症不整脈
  • 体外循環離脱困難症
  • OPE後の低心拍出量症候群(LOS)難治性不整脈
  • 急性心筋梗塞後心源性ショック
  • 心筋炎による低心拍出量症候群
  • 重症冠動脈疾患症例におけるPCIの施行時
  • 呼吸不全に対するECMOなど
  • 肺血栓塞栓症
  • 心停止
  • 心筋梗塞(急性)
  • 心筋炎、心筋症
  • ※両室の前負荷の軽減になるが、左心室からの拍出は残るので流量が多い場合、かえって後負荷の増大を招く恐れがある。

 
 
【PCPSの合併症】

  • 出血
  • 下肢虚血
  • 血栓性塞栓症
  • 感染