【人工肺の備えるべき特性】
- 体循環を維持するために十分な量(5L/分)の静脈血に酸素加する能力を有すること。
- 酸素加能力とともに適正な炭酸ガス除去ができ、呼吸性アシドーシス、アルカローシスに傾かないようにする。
- ガス交換能が長時間一定であること。
- 赤血球の破壊、血漿たんぱくの変性など血液成分に対する影響が少ないこと。
- 生体の静脈系より心臓へもどってきた静脈血に酸素加し、かつ炭酸ガスを除去する部分である。種類としては、フィルム型(回転円盤型) 、 気泡型、 膜型(現在では最も多用されている)などがある。
- 中心静脈が陽圧の時は脱血不良になりやすい。
- 落差脱血はサイフォンの原理によって行われる。
- 陰圧吸引補助脱血ではリザーバーに陽圧防止弁を装着する。
- 送脱血が安定していて吸引回路量が多い場合は血液濃縮を行う。
【気泡型人工肺】
- 現在広く用いられ様々な改良が加えられている。同じ量の酸素ガスを送る場合、気泡のサイズを小さくすればするほど血液との接触面は大きくなり、 酸素加の効率は良好となるが、気泡の除去が困難となる。
- 一方、気泡のサイズが大きくなれば、気泡の除去は容易になるが、酸素加の効率は低下する。この方式の人工肺は、 熱交換器を内蔵したハードシェルタイプのディスポーザブル製品として、現在臨床に広く使用されている。
- 静脈貯血槽下部から酸素ガスを小孔を通して小気泡として吹入し、血液と直接接触させる。
【膜型人工肺】
- 人工肺の膜素材としてポリプロピレン・ PTFE ・ポリスルフォン・ポリオレフインがある。
- 膜型人工肺の材質には、均質であるシリコー ン、 多孔質膜であるポリプロピレン、非対称膜であるポリメチルペンテンがある。また、シリコー ン等をサンドイツチした複合膜などがある。
- 膜を通過する高分子材料の分子間を気体は通過することができる。
- 外部濯流型は血液が中空糸の外側を流れるため、血流は乱流である。乱流になるように設計することでガス交換能が向上する。内部灌流型の血流は層流である。
- 現在の人工肺は膜型中空糸型のものが用いられ、圧力損失の軽減のため外部灌流型である。
- 膜型人工肺は酸素の濃度と流量により PaO2 と PaCO2を独立して調節することができる。
- 一般的に使用される多孔質膜の人工肺はガス交換能が優れるが、 Wet lung や血漿漏出の問題がある。
- 細孔の境界は界面疎水性による表面張力により血漿膜を形成し、血漿量出を防いでいる。
- 酸素分圧は送気ガスの酸素濃度、二酸化炭素分圧は送気流量によって調節できる。
- PaCO2の調節はガスの流量によって行われる。
- 外部灌流型は中空糸の外側を血液が灌流するものである。
- 膜型人工肺の下流に血液ポンプを設置するとポンプにより発生した陰圧により血液内部にガスが引き込まれる可能性があるため血液ポンプの下流に人工肺を設置する。
- 膜型人工肺は疎水性を維持しなければガス交換効率が悪くなる。
- 生体の肺胞表面積は 70~100 m2、人工肺の膜面積は成人用で 1. 3~2.5 m2 程度である。
- 膜面積は、成人用で 2m2 前後、疎水性の性質がある。
- 血液とガスが直接接触しガス交換が実施されるため、血液損傷やタンパク変性が多い。
- 膜型人工肺の利点として低充填量・空気抜きの簡便性がある。
- 血流が中空糸の外部を流れる外部灌流型は、血液が乱流を起こしやすく、ガス交換能が良い。
- 多孔質膜は細孔が開いているが、疎水性なので血漿成分が漏れることはない。しかし温度差によって膜表面が結露する現象が生じるが、この現象を wet lung という。
【膜の種類】
種類 | 膜素材 | 膜厚μm | 気体透過係数 ×10^-10 | 物質移動係数 ×10^-6 | ||
O2 | CO2 | O2 | CO2 | |||
多孔質膜 | ポリプロピレン | 25 | 2.2 | 9.2 | 40000 | 34000 |
均質膜 | シリコーン (ポリジメチルシロキサン) |
100 | 600 | 3200 | 6.2 | 31 |
非対象膜 | ポリメチルペンテン | 25 | 32 | 93 | 64 | 186 |
多孔質膜 :ポリプロピレン
- 多孔質膜では 0.03 ~0.07μm の細孔を通して、血液がガスと直接接触することでガス交換が行われる。
- 血液とガス交換膜の微少細孔を介して接する。
- 多孔質膜は長時間使用すると血漿成分が漏出するようになる。
- ポリプロピレンは多孔質膜であり、 Wet lung の持続により界面疎水性が失われると発生する。
- 外部灌流型は内部灌流型よりも血液が乱流になりやすくガス交換能が良好となる。
- 外部灌流型は内部灌流型よりも圧力損失が小さい。
- 多孔質膜は、長時間の体外循環に使用すると、血漿タンパクが膜表面に吸着し、膜の表面張力が低下することによって血柴成分の漏出を起こす。
- 多孔質膜の膜材料はポリプロピレンであり、均質膜の膜材料はポリジメチルシロキサン(シリコーン)である。
均質膜
- 均質膜は機械的強度が低いため、薄膜化が困難である。ポリプロピレン多孔質膜が20 ~ 30μm であるのに比べ、シリコーン均質膜は 100 μ m の膜厚がある。
- 均質膜では、生体肺同様に拡散によってガス交換が行われる。
多孔質膜 | 均質膜 | |
細孔 | あり、細孔径0.03~0.07μm | なし (多孔質膜と比べ酸素化効率が劣る) |
換気方法 | 細孔を通して、ガスと血液が直接接触 | 気体が膜材に拡散して血液相に移行 生理的な呼吸に類似 |
膜材質 | ポリプロピレン ポリテロラフルオロエチレン |
シリコン |
長時間使用 | 不可 →血漿成分が漏れる |
可能 →ECMOに使用 |
機械的強度 | 高い | 低い |
薄膜化 | 可能 | 困難 |
シリコン膜
- シリコーン膜は脆弱なので膜厚を厚くする必要がある。
- シリコーン膜は約 100μm、ポリプロピレン膜は約 25μm である。
- シリコーン膜は気体透過係数が他の材質に比べると非常に良いが、強度が低いため、厚くする必要がある。
非対称膜 :ポリメチルペンテン
- ポリメチルベンテンは非対称膜である。
- 非対称構造膜は緻密層と多孔質層から形成される。
- ポリプロピレンは 0.05μm 程度の細孔が開いているので、長時間使用すると膜が親水加して、血紫漏出が生じる。
複合膜 :シリコーン、ポリプロピレン
- 複合膜はポリプロピレンとシリコーンを合わせた膜である。
- 複合膜では血液層にシリコーンやフッ素でコーテイングすることで、サンドイッチ構造となるために直接酸素と接触はしない。
ガス交換性能が高い人工肺
- 膜の中をガスが移動する抵抗が少ない膜(ガス透過性の高い)を用いる。
- ガスが移動する膜の厚みを薄くする
- 血液中をガスが移動する距離を短くする(血液の流れを不均一にすると攪拌効果を上げる)
- 膜面積を大きくする。
- ガス分圧格差を大きくする。
ヘパリンコーティング人工肺について
- ヘパリン結合法にはイオン結合法、共有結合法などがある。
- 血液が人工材料と接触しタンパクの表面吸着により補体の活性化や顆粒球の活性化が生じるが、ヘパリンコーティングにより抑制できる。
- 抗凝固剤投与量を減少させることはできるかもしれないが、使用しないことには危険性が残る。
- 補助循環においてヘパリン連続投与による出血を減少できる。
- 心肺回路やその他の心肺回路構成物もコーティングした方がよい。
その他
人工心肺中の血ガスデータが、PaO2:120mmHg、PaCO2:35mmHgであった時、人工心肺中の操作として適切な方法は?
解答)
標準的な体外循環中の血液ガスデータは
pH 7.4±0.05
PaO2 200~300 mmHg
PaCO2 35~45 mmHg
などとなっている。
人工心肺中の血液ガスデータが PaO2 120mmHg、PaCO2 35mmHg である場合、上記の標準的な血液ガスデータを目標値とすると、PaO2を上げる必要がある。
但し、これ以上 PaCO2 が下がるのは避けたい。
PaCO2は変えずに PaO2 を上げたい場合は、人工肺への吹送ガス濃度を上げる。