【概要】
- 下行大動脈内に留置したバルーンを、心周期に同期させて収縮・拡張の圧補助を行うことにより、
- 収縮期の後負荷の軽減と
- 拡張期圧の上昇を行う装置である。
- 心臓のポンプ機能の10~15%程度の補助が可能
- 冠血流量で5~15%程度の補助が可能
【適応】
- 急性心筋梗塞に続発した心原性ショック
- 人工心肺からの離脱困難
- 開心術後低心拍出症候群(LOS症候群)
- 切迫心筋梗塞
- 治療抵抗性心室性の不整脈
- 重症冠状動脈バイパス手術や冠不全不全患者一般手術に対する予防的使用などである。
- 血行動態基準
- 心係数 2.0L/min/m2未満
- 収縮期血圧 80mmHg以下
- 左室拡張終期圧(左房あるいは肺動脈楔入圧) 18mmHg以上
- 時間尿量 20mL以下
【IABP禁忌】
- 高度の大動脈弁閉鎖不全
- バルーンの拡張期における左室への血液の逆流が増大・憎悪し、左室の過伸展から心室細動を引き起こすことが考えられる。
- 大動脈瘤
- 閉塞性動脈硬化症(ASO)の患者では、下肢血行障害に十分注意する。
- 大動脈内に石灰化病変が存在するとその部位とバルーンが頻繁に接触して血管壁の摩擦から亀裂が生じ、大動脈解離への病変が悪化する恐れがあるためIABPは禁忌
- 出血性素因、血液凝固異常、出血を伴う疾患は相対的禁忌
【方法】
- 大腿動脈からセルジンガ一法によって経皮的にバルーンカテーテルを下行大動脈まで挿入する。
- 身長によって選択するバルーンサイズは異なる。適切なバルーンサイズを選択しないと、穿孔や虚血の原因となる。
- バルーンは胸部下行大動脈内に留置する。
- バルーンカテーテルの先端は左鎖骨下動脈分枝部直下に置く。
- バルーン下端は腹腔動脈よりも上になるように留置する。
- IABPにおいてバルーンの収縮のタイミングは心電図上のQ波で行うのが最も効果的である。一方でバルーン拡張のタイミングは心電図上のT波下行脚部分で行う。
- 通常は心電図のR波を心拍と同期させるためのトリガ信号とする。
- 動脈圧波形はトリガ信号に利用できる。
- 体外循環中の拍動流化に用いられる場合には、内部レートが用いられることがある。
- 拡張・収縮のタイミングが適切でなければ心負荷が増大する。
- 施工中は下肢の拍動を触知してバルーンの拡張・収縮を確認する。
- バルーン(容量40mL)を拡張させるにはヘリウムまたは炭酸ガス(二酸化炭素)を用いる。
- IABP装置の心臓部にあたる部分、方式は機種により異なるが、大別して電磁方式(ソレノイドポンプやステップモータを利用)とガス圧方式(高圧および真空を電磁弁によって切り換える)に分けられる。
- トラブルにより機械駆動が出来ない場合にはシリンジを用いて手動で拡張・収縮させることができる。
- その他
- IABP施行時のACTは200秒程度である。
【トリガーのタイミング】
<バルーンの拡張>
- 大動脈圧波形のdicrotic notch(大動脈弁が閉じる)
- 心電図波形のT波の下降付近
<バルーンの収縮>
- 拡張末期動脈圧が最低値を示すよう心電図波形のR波付近
【IABPの心臓に対する補助作用】
心仕事量の減少
- IABPを行っていないときには収縮期圧が一番高く、拡張期圧は低い。ところがIABPを施行すると、 拡張期圧の方が収縮期圧よりも高くなる。 →拡張期の圧上昇効果
- それは拡張期に合わせてバルーンを拡張させ血液を心臓の方に送り返すからである。
- 心臓収縮期直前にバルーンを収縮させることにより、後負荷を軽減させることができる。
- IABPによる補助効果は心仕事量の10~15%程度である。
- 収縮期にはバルーンが収縮するので、血流に対する抵抗が急激に低下し、そのため収縮期の血圧は低下する。このようにして収縮期の後負荷(血管抵抗)の軽減をはかっており、心臓への負担を軽減している。
心筋酸素消費量の減少
- 心臓の後負荷を軽減することによって、心仕事量が減少し、心筋酸素消費量が減少する。
冠動脈血流量の増加
- 冠状動脈の血流の多くは心臓拡張期に流れる。IABPによって心臓拡張末期圧を上昇させることによって、冠状動脈の血流量を増加させる。
- リスクの高いPCI症例では冠動脈の血流を増やし、リスクを軽減する。
【IABPの合併症】
- 下肢の動脈や腹部大動脈主要分枝の血行障害
- 腹部動脈の血行障害
- 下肢の血流を阻害、挿入部より下位の動脈が触知できるかを確認する。
- 大動脈解離
- 穿孔
- 挿入部の血腫
- 長期の挿入は感染症を起こすこともある。挿入部位は要注意。
- 血小板減少
- 異物反応による血小板粘着、凝集がおこり血小板は減少
- バルーン破裂
- 出血
- 感染
- 動脈壁損傷