HOME | New臨床工学技士まとめサイト | 呼吸療法装置 | 高気圧酸素療法

高気圧酸素療法

【高気圧酸素療法(または高圧酸素療法)】
原理

  • ヘンリーの法則(血液溶解)に基づき、患者を密閉した空間に収容し大気圧よりも高い気圧環境下で純酸素を吸入することによって溶解型酸素を増加させ、低酸素症を迅速に改善する。
  • 再圧治療の原理はボイルの法則 : 一定の温度で気体の圧力と容積は反比例する。
  •  高気圧酸素療法において酸素加圧した場合、 2ATAでは酸素分圧が 1520mmHg、3 ATAでは 2280mmHgとなる。
  • 3ATAの酸素分圧は乾燥した大気の酸素分圧の約 14倍 となる。
  • 燃焼する際に発生する燃焼熱は大気圧空気環境よりも高い。
  • 酸素濃度が大気圧酸素濃度と比較し高いため、燃焼速度は増加する。
  • 物質の発火温度は低下する。
  • 高気圧環境下により酸素濃度が増加し、燃焼しやすい(支燃性が良い)環境となる。 

 
期待する効果

  • 低酸素改善効果:動脈血酸素分圧の増加、溶解型酸素の増加、血液中の酸素含有量の増加
  • 物理的効果:不活性ガス洗い出し、一酸化炭素の排出促進、体内ガスの圧縮
  • 薬理効果:酸素毒性を利用した嫌気性菌に対する殺菌作用(Oxidative killing効果)、活性酸素の増加

 
 
【酸素分圧と血中酸素量】
肺胞気酸素分圧

  • 肺胞気酸素分圧=(環境気圧-47) × FIO2 -PaCO2 / 0.8
      • 47:370 Cの飽和水蒸気圧
      • 0.8:呼吸商
  • 3絶対気圧での肺胞気酸素分圧は、(760×3-47) ×1.0-40 / 0.8≒ 2200mmHg となる。
  • 2絶対気圧での肺胞気酸素分圧は、約1400mmHgとなる。

 
【動脈血酸素分圧】

  • 治療中の装置内気体分圧は、「大気圧 (760mmHg) 」×「治療圧力」×「加圧気体の濃度」で求められ、第 1種治療装置と第 2種治療装置で差異はない。
      • 酸素で2絶対気圧まで加圧した場合の酸素分圧は、 760×2 × 1.0 = 1520 mmHg
      • 空気で2絶対気圧まで加圧した場合の酸素分圧は、 760×2 × 0.21≒ 319 mmHg
      • 空気で2絶対気圧まで加圧した場合の窒素分圧は、 760×2 × 0.79≒ 1201 mmHg

 
結合酸素量

  • 結合型酸素量=SaO2(%) / 100×Hb (g/dL) ×1.39(mL/g)
      • 1.39 : Hb 1 g当たりの酸素結合量
  • 仮に3絶対気圧であっても酸素飽和度は100%以上にはならないため3倍にはならない。

 
溶解酸素量

  • 溶解型酸素量 [mL/ dL] = 0.003[mL / dL / mmHg] × PaO2[mmHg]
      • 0.003 : 37℃の時の酸素溶解度
  • 3絶対気圧下での溶解型酸素量が結合型酸素量を上回ることはない。
      • 3絶対気圧下での酸素量は結合型酸素量がおよそ 20 (Vol%)、溶解型酸素量がおよそ 6.5 (Vol%)となる。

 
ヘンリーの法則

  • 血液中の酸素は、ヘモグロビンと化学的に結合する結合型酸素と血液に物理的に溶解する溶解型酸素に分けられる。
  • 一定の温度下では、気体が液体に溶ける量は気体の分圧に比例する。
  • 溶解型酸素は以下の式で求められる。
      • 溶解型酸素量 [mL/ dL] = 0.003[mL / dL / mmHg] × PaO2[mmHg]
  • 高気圧酸素療法は、血中酸素含有量を増加させ循環障害や低酸素状態を改善させる
  • 溶解型酸素は組織の酸素化をもたらす。

 
ボイルの法則

  • 理想気体において、温度が一定の状況下では圧力と体積は反比例する現象をボイルの法則という
  • 高気圧酸素療法の治療気圧が2気圧時では、気体体積は大気圧 (1気圧) 時の半分となる。

 
 
【高気圧酸素治療の適応】

1)発症後1か月以内に行う場合に、一連につき7回を限度 (2)一連につき 10 回を限度 (3)一連につき 30 回を限度
□ 空気塞栓
□ 減圧症
□ 急性一酸化炭素中毒その他のガス中毒(間歇型を含む)
□ 重症軟部組織感染症(ガス壊疽、壊死性筋膜炎)又は頭蓋内膿瘍
□ 急性末梢血管障害
・重症の熱傷又は凍傷
・広汎挫傷又は中等度以上の血管断裂を伴う末梢血管障害
・コンパートメント症候群又は圧挫症候群
□ 脳梗塞
□ 重症頭部外傷後若しくは開頭術後の意識障害又は脳浮腫
□ 重症の低酸素脳症
□ 腸閉塞
□ 網膜動脈閉塞症
□ 突発性難聴
□ 放射線又は抗癌剤治療と併用される悪性腫瘍
□ 難治性潰瘍を伴う末梢循環障害
□ 皮膚移植
□ 脊髄神経疾患
□ 骨髄炎又は放射線障害

  •  ※スモンの患者に対して行う場合は(2)より算定する。

 
 
 【装置】
装置

  • 高気圧酸素治療で用いられる装置には、患者1人を鉄製もしくはアクリル製の装置内 に収容して加圧する「第1種治療装置」と複数の患者を同時に収容し加圧する「第2種治療装置」がある。

 
第1種

  • 第1種治療装置は、酸素加圧が可能だが、その場合、常用治療圧力は 2絶対気圧としている。
  • 治療は、第1種装置は 2ATA以上 2.8ATA以下の治療圧力で60分とする。
  • 静電気を発生させないために、木綿製の衣類を使用する。
  • 第1種装置の内部に設けられる電気機器等
      • 心電計及び脳波計の電極
      • 通話・通信装置のマイクロホン・スピーカ及び警報用ブザーのスイッチ
      • 本質安全防爆構造等により前項の環境条件のもとで防爆性能を有したもの
  • 第1種装置の内部には、この項に規定する電気機器以外のものを使用する目的で電力供給用の配線、端子又は電源回路等を設けてはならない。

 
第2種

  • 第2種治療装置では酸素加圧は許可されず、装置内の加圧時酸素濃度は23%以下に制限される。
  • 2種装 置は 2ATA以上 3ATA以下の治療圧力で 60分以上 90分以下とする
  • 2種装置はいわゆる多人数用の治療装置であり、主室(治療室)と副室(予備室) の 2室構造になっている。
  • 治療中であっても主室と副室の間で医療スタッフ、医療機器、 薬剤等の移動は可能である。
  • 主室での患者急変時には医師が緊急的入室を必要と判断した場合、副室を介した緊急対応を行うことが可能である。
  • 医療機器の移動や薬剤(点滴など)の補充なども同様に受け渡しが可能となっている。
  • 建築基準法により特定防火設備の構造となっている。
  • 装置内には各患者に酸素吸入ができるように、酸素の配管がある。
  • 人工呼吸による呼吸管理を必要とする場合にも対応することができる。
  • 人工呼吸器や輸液ポンプなど患者の状態に応じて、医療機器を使用することができる。

 
 
【治療上の注意点】
持ち込み禁止な物品

  • ライター・カイロなど点火源となる物。
  • 引火する危険のあるもの(紙類、油脂類、消毒用アルコール、ベンジンなど)
  • 火傷の危険のあるもの(湯たんぼなど)
  • 衝撃などにより破裂や火花を発するもの(電気製品・補聴器・装飾品・時計・ペン・鍵 など)
  • 静電気が発生しやすい化学繊維製の衣類など

 
1種装置では、以下の場合に治療を行ってはならない

  • 治療中に他の医療行為の併用を必要とする可能性が予想される患者
  • 治療中に装置内で医療職員の介護を必要とする患者
  • 気管支端息又は自然気胸若しくは開胸手術の既往を有し、かつ、急性の換気障害を発生する危険のある患者
  • 誤嚥又は窒息若しくは重篤な不整脈その他、重篤な呼吸循環障害を発生する危険のある患者
  • その他、第 1種装置による HBOTが危険と考えられる患者 など

 
 
【管理・保守】
使用前点検

  • 通話装置の動作
  • 扉開閉装置の動作
  • 圧力計の動作
  • 接地状態
  • 消火設備
  • 発火物などの危険物の有無

 
治療前点検

  • 装置内部、周囲、設置場所の状況を再点検し、火気、危険物のないことを確認
  • 通話装置の作動状況を再点検し、装置内部の非常用警報ブザーの作動性を確認
  • 空気系、酸素系の供給圧を再点検し必要があれば、ボンベを新しいものと取り替える。

 
患者の点検

  • 耳抜き(外耳道と中耳の圧力差をなくす)の要領を説明
  • 患者の着衣は、合成繊維を避けて木綿製品としできれば防炎・不燃性加工を施したものに変更
  • 自動注入器については、機械式動力源を使用したもののみ使用可能
  • 体外ペースメーカーは圧力により破損するものがあるので注意。埋込み式は一般的に問題ない。
  • 持ち込み禁止物品
      • マッチ、ライター、カイロなど発火源となる物品
      • 破損したら火傷の原因となる湯たんぽ
      • 圧力暴露によって破損するおそれのあるもの
        • 腕時計
        • 万年筆(圧力変化をうけやすい)
        • 補液ビン(圧力変化より急速補液に至る可能性がある)
      • ラジオなどの電気製品
        • 携帯電話
      • その他の引火性物質

 
 
 
【操作】
操作者

  • 1名以上の技士が1台のタンクを受け持つ

 
加減圧速度

  • 加圧速度と減圧速度は、毎分0.078MPa (0.8kgf/cm2) 以下に制御する。
  • 毎分0.08MPa(0.8kgf/c㎡)以下で、患者の状態や加圧に順応しているかを確認しながら加圧する。

 
滞在時間(減圧開始~最高治療圧力下まで)

  • 60分

 
減圧

  • 毎分0.08MPa(0.8kgf/c㎡)以下で行う。体内窒素は殆ど洗い出されているため急速減圧による減圧症の発症の可能性はないが、圧力変化に伴う鼓膜、中耳、内耳、肺などに対する障害いわゆる気圧外傷のおそれがある。減圧時間は、2気圧で15分(計75分)。
  • 3気圧で30分(計90分)

 
 
排気量

  • 装置内の二酸化炭素の分圧が490Pa (濃度は大気圧換算5000ppm) を超えないように排気量を調整する。

 
最高酸素濃度

  • 酸素加圧方式では0.3MPa以下において100%にする。
  • 第2種装置は、装置内の酸素濃度23%を超えない排気量を調節する。

 
治療時間

  • 第1種装置は、 0.102 MPa (2ATA) 以上0.182MPa (2.8ATA) 以下で60分とする。
  • 第2種装置は、 0.102 MPa (2ATA) 以上0.203MPa (3ATA) 以下で60分以上90分以下とする(減圧症などの再圧治療は除く)。

 
 
【合併症】
気胸

  • 減圧時に息止めをした、気道が閉塞したなどの理由で肺胞が環境よりも高圧になった ときに発生する。

 
急性動脈ガス塞栓

  • ガスによる急性の動脈塞栓は、減圧時に血液などの溶存気体が気泡化して発症する。減圧に十分時間をかける必要がある。

 
副鼻腔障害

  • 副鼻腔への圧力障害は、副鼻腔と環境の気圧差が生じた場合に起こる。加圧時だけでなく減圧時にも起こる可能性がある。

 
鼓膜損傷

  • 鼓膜を境に内側と外側の圧較差によって鼓膜が損傷する合併症である。治療中の耳痛は、加圧時に特に好発する。耳抜きにより意図的に耳管を開くことで圧力差を取り除き、耳痛や鼓膜損傷を防止できる。